このページでは、インターネットでの誹謗中傷に対してどのような対応ができるかについてお伝えします。
インターネット上での誹謗中傷とは
インターネット上での誹謗中傷とは、電子掲示板やSNSへの投稿など、インターネットを利用して行われる誹謗中傷行為をいいます。
他人の悪口を言う「誹謗」という言葉と、根拠のないことをいいふらす「中傷」をまとめてこのように呼びます。
スマートフォンの普及にともなって、気軽にインターネットにアクセスしたり、SNSにおいて誹謗中傷をする人が非常に増えています。
2020年総務省総合通信基盤局が発表した「SNS上での誹謗中傷への対策に対する取組の大枠についてによると、インターネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件は、平成17年には272件であったのに対して、令和元年には1985件となっており、さらに最も多かった平成29年には2217件となっております。
誹謗中傷とはどのようなものか
ここに「誹謗中傷」とは、根拠がないことで相手を傷つける行為をいいます。特に法律で規定されている定義などはありません。
目の前で悪口を言いふらすことや、たとえば自宅のドアに悪口を書いた張り紙をされるようなことは誹謗中傷にあたります。
インターネット上の誹謗中傷は、その行為がインターネット上の電子掲示板や口コミサイト、SNSに書き込まれるなどして行われます。
誹謗中傷と批判とはどのように違うか?
ところで、誹謗中傷と同じ用に行われると不快であると感じるものに「批判」があります。
いずれも不快に思うことがある点で変わるものではないのですが、批判は意見や主張について評価・検討をするために、その意見や主張について欠点を指摘する行為をいいます。
このように記載すると両者は別物のように見えることもありますが、批判の内容や方法によっては誹謗中傷となることもあります。
例えば、インターネット上のある意見に対して、単に意見を否定するだけであり、その方法が相手をからかうような方法で行われるときには、誹謗中傷と評価できることもあります。
インターネットやSNSで行われる誹謗中傷の特徴
このような誹謗中傷がインターネットやSNSで行われる場合には「匿名」という特徴があります。
法的な手続きをとるために必要な相手方の特定が通常は非常に難しく、相手の特定のためだけに法的な手続きが必要となるなど、誹謗中傷の対応をするために必要な手続きが多くなるという特徴があります。
企業や政府の誹謗中傷への取り組み
誹謗中傷については、企業や政府などで様々な取り組みがされています。
SNSや電子掲示板を運営する会社では、約款・ポリシーにおいて誹謗中傷などをすることを明確に禁じ、対象の書き込みの削除や、書き込みを行った者のアカウント停止などと行っています。
また政府では総務省を中心に取り組みを行っています。
2020年9月1日に「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を発表し、啓発活動・発信者情報開示に関する法整備やガイドライン策定などを行っています。
誹謗中傷に対してどう対策すれば良いか
では実際に誹謗中傷を受けた場合にはどのように対応すべきでしょうか。
誹謗中傷について、その行為が民事上の慰謝料請求の対象になる可能性があり、あわせて刑法犯として刑事罰が適用される可能性もあります。
被害者としては、民事上の損害賠償を行うほか、刑事事件として加害者が逮捕・訴追されるための対応をとることが可能です。
誹謗中傷の相手に刑事責任を追求するには
誹謗中傷は犯罪となって刑事責任を問われる可能性があるものもあります。
インターネット・SNS上の誹謗中傷に成立しうる罪
インターネット・SNS上の誹謗中傷に成立しうる罪としては、
- 名誉毀損罪(刑法230条)
- 侮辱罪(刑法231条)
- 信用毀損罪(刑法233条)
- 脅迫罪(刑法222条)
が成立しえます。
名誉毀損罪
一定の事実を示して公然と人の社会的評価を下げる名誉毀損は、刑法230条で処罰されます。
例えば、2017年1月31日SNS上に「さまざまな女ユーザーに迷惑行為を行い、最終的にはそんなことをやっていないと逃げ惑っている」など平成27年7月から28年9月までの間に繰り返し誹謗中傷を行ない、被害者を自殺に追い込んだ件で、加害者が名誉毀損で逮捕されています。
侮辱罪
一定の事実を示すことなく公然と人の社会的評価を下げるのが侮辱罪で、刑法231条で処罰の対象となっています。
なお、侮辱罪は刑罰が拘留又は科料と非常に軽いものとなっており、インターネット・SNSでの侮辱行為の増加に対応できていないとして、厳罰化の方向で調査などが勧められています。
現状微罪なのでめったに逮捕や書類送検されることはないのですが、元アイドルのタレントに対して匿名掲示板で「気持ち悪い」「流産しろ」など繰り返し誹謗中傷をしていた2名が書類送検されるに至っています。
信用毀損罪
虚偽の風説を流したり偽計を用いることで、人の信用を毀損したり業務を妨害した場合には信用毀損罪が成立します(刑法233条)。
例えば、「○○は破産寸前で取引する人なんかいない」「○○医院は医療過誤の常連」といった書き込みです。
脅迫罪
生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害を加える旨を書き込むような場合には、脅迫罪が成立しえます(刑法222条)。
例えば、「学校に来たら殴ってやる」「今度あったら殺してやる」といった書き込みです。
刑事責任追求の仕組み
以上のような刑法に反する行為をした者に対する刑事責任の追求は、
- 逮捕(必要性に応じて)
- 送検
- 刑事訴追
- 有罪判決の確定
- 刑罰の執行
という段階を追って行われます。
逮捕
ほとんどのケースでまず警察による逮捕が行われます。侮辱罪のような微罪の場合には逮捕はされず、刑事事件にする場合には身柄を拘束せずに起訴されることになります。
送検
起訴をするために検察官に逮捕した被疑者の身柄や証拠などを送ることを送検と呼びます。
刑事事件は基本的には検察官のみが起訴をすることができるので、刑事事件にするためにはこの送検が行われます。
起訴
検察官が起訴を行ないます。
起訴するかどうかは検察官に委ねられており、嫌疑不十分な場合や刑事事件にする必要がないと考えた場合には検察官は起訴しないこともできます。
起訴されなかったことが不当だと考える場合には検察審査会という機関に申立をして審査してもらうことが可能で、起訴をするのが相当だという判断があっても検察官が起訴しない場合には、例外的に起訴の手続きを行うことができることになっています。
有罪判決の確定
起訴されると裁判が開始され、裁判所は有罪・無罪および有罪としてどのような刑事罰を課すかの判決を下します。
日本は三審制と言われるように、有罪判決を受けたとしても控訴・上告などの上訴を行うことができますので、最終的には最高裁判所が判決をするか上訴をしない場合に判決が確定します。
刑罰の執行
判決が確定すると刑罰が執行されます。懲役刑が課された場合には刑務所に収監され、罰金刑が課された場合には罰金が納付されます。
誹謗中傷の被害者が刑事責任に対してできること
誹謗中傷の被害者が刑事責任に対しては、被害者は被害届や告訴をすることで関わりを持つことになります。
上述したように起訴は基本的には検察官が行うのであって、被害者が行うものではありません。
しかし、警察署に相談したり被害届を出すことで、刑事事件となることを警察署に知らせることができます。
また、告訴をすれば警察に捜査をする義務を課すことが可能です。
もし、起訴されなかった場合には、上述したとおり検察審査会に申し出ることができます。
さらに、刑事事件になった際には被害者としてどのような処罰を求めるかなどの陳述をすることになります。
誹謗中傷の相手に民事責任を追求するには
誹謗中傷をする相手に民事責任を追求するためにはどのように行うかを確認しましょう。
民事責任としては、
- 不法行為責任
- 信用回復措置
- 差止請求
が考えられます。
誹謗中傷の相手に不法行為責任を問う
誹謗中傷という不法行為が行われた場合には、被害者は精神的苦痛を被ったとして、相手に対して慰謝料の請求を行うことが可能です。
ここにいう慰謝料とは、民法では709条、710条に規定されている不法行為責任として支払うべき金銭のことを言います。
信用回復措置(謝罪広告)
誹謗中傷の内容が名誉毀損となる場合(民法723条)や、不正競争防止法2条1項21条に該当する信用毀損行為に該当する場合には、裁判所は信用回復措置を命じることができます。
信用回復措置とは、加害者の費用で謝罪広告を掲載することです。
謝罪広告は必ず命じられるわけではなく、誹謗中傷行為が金銭による賠償だけでは必ずしも被害の回復がされたといいがたいような場合に行われます。
差止請求
誹謗中傷行為が続いているような場合には、差止めを請求することが可能です。
たとえば、SNSに記載されたままであるような場合には、削除しなければ1日につき○万円支払うという形で、間接的な方法で行われます。
誹謗中傷の民事上の請求をする際の手続き
誹謗中傷に関する上記の民事上の請求をするには、
- 任意の交渉
- 法的手続
- 強制執行
という3つのステップに分けて考えます。
誹謗中傷の相手と任意の交渉を行う
まずは、インターネットやSNSで誹謗中傷を行う相手と任意の交渉を行ないます。
任意の交渉なので方法は問いません。
相手が判明している場合には内容証明郵便で請求を行うことで、本気で請求していることを伝えるのが重要です。
ただし、インターネットやSNSで行われる誹謗中傷については、相手がどこの誰かもわからないということは珍しくありません。
SNSの場合にはDM機能をつかって接触を試みることはできますが、SNSのやりとりだけで損害賠償を払わせるところまでは現実には難しいと考えておくべきでしょう。
誹謗中傷をする相手に法的手続を行う
誹謗中傷をする相手に法的手続を行ないます。
法的手続を行う際には相手の特定が不可欠です。
そのため、相手の特定のために必要な手続きを行ないます。
SNSの場合には、SNSを運営している会社に対して、ログインをした際のIPアドレス情報を開示するように仮処分を求めます(発信者情報開示仮処分)。
IPアドレス情報がわかると、利用しているプロバイダが判明しますので、当該プロバイダに対して発信者情報開示仮処分を行ないます。
相手の情報が特定できると、その相手に対して損害賠償・謝罪広告・差し止めを求めて法的手続を行ないます。
法的手続といえば訴訟ですが、仮処分や調停などの手続きを利用することも可能です。
また、損害賠償のみを求める場合には、簡易訴訟などの手続きの利用も検討しましょう。
インターネット・SNS上での誹謗中傷の慰謝料相場
インターネット・SNS上でされた誹謗中傷に対する慰謝料の相場は一般的には50万円程度が上限とされます。
しかし、発信をした者が影響力が大きいような場合や、誹謗中傷によって精神疾患を発症した・自殺をしたような場合、発信の内容によっては慰謝料が高額になるようなケースもあります。
インターネット・SNS上の誹謗中傷に対して損害賠償が認められた事例
インターネット・SNS上の誹謗中傷に対して損害賠償が認められた事例には次のようなものがあります。
福岡の医師が大阪の医師をインターネット掲示板で誹謗中傷したケース
福岡の美容外科医が大阪の美容外科医に対して、インターネット掲示場において誹謗中傷を行ったケースで、大阪地方裁判所は110万円の損害賠償請求を認めました。
元市議会議員が無関係の人をあおり運転の同乗者として拡散じたケース
2019年8月に茨城県常磐自動車道で起きたあおり運転事件において、愛知県豊田市の元市議会議員が、全く無関係の人を容疑者の車に同乗していた人であるとしてSNSで拡散した事件で、東京地方裁判所は女性の訴えに対して元市議に33万円の損害賠償を認めました。
誹謗中傷されたときには弁護士に依頼すべき
誹謗中傷されたときには、弁護士に相談・依頼をして解決をすることが望ましいです。
誹謗中傷の被害者が弁護士に相談・依頼をすべき理由としては、
- 早く誹謗中傷されている状態から脱することができる
- 相手と直接会う必要がない
インターネットやSNSで誹謗中傷をされているときに、交渉や法的手続きをすべて自分で進めるとすると、どこで交渉を打ち切るべきかがわからない、細かい手続きがわからず調べなければならないなどで時間がかかることがあります。
誹謗中傷の内容が悪質で早めに相手に削除をさせることが望ましいような場合に、このように時間をかけることは望ましいとはいえません。
また、誹謗中傷の被害を受けているような場合には、常にストレスにさらされることになります。
弁護士に依頼してしまえば、交渉や訴訟などの手続きをませてしまえ、相手と直接会わずに手続きを終えることも可能です。
そのため、弁護士に相談・依頼して行うのが望ましいです。
弁護士に依頼した場合の費用
誹謗中傷を受けたときに弁護士に依頼して解決するための費用としては、
- 法律相談料 差し止め(削除)
- 損害賠償請求
- 刑事告訴以上
に分けて考える必要があります。
法律相談料
誹謗中傷の対応についてはまず弁護士に法律相談をするところから始めます。
法律相談については30分5,000円程度の法律相談料がかかります。
誹謗中傷は事前にどれくらいまとめているか、誹謗中傷の料や内容によって異なりますが、一般的に1時間~1時間半程度は相談に時間がかかります。
そのため、10,000円くらいの法律相談料がかかります。
法律相談料に関しては、法テラスや市区町村役場や弁護士会での無料法律相談を利用することも可能ですが、誹謗中傷問題のような個人に関する法律問題については、無料で相談を受けている弁護士も多くいます。
弁護士にも得意・不得意な分野があるので、無料で相談を受け付けている誹謗中傷問題に詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。
事前に以下のようなことを整理しておくとスムーズです。
- 誹謗中傷の内容(どのサイト・SNSに書き込まれたものか、書き込みの内容、期間)
- 相手についてわかっていること
- 希望(削除のみでよいのか損害賠償まで求めるのか)
差し止め(削除)
発信をしている人による権利侵害の差し止め(つまり削除をしてもらう)をする場合、まず相手を特定する必要があるのは上述した通りです。
発信者を特定するためには上記のように発信者情報開示請求を行います。
この手続を依頼するのに、
- 着手金:20万円~30万円程度
- 報酬金:15万円程度
が相場となっています。
相手を特定した上で、相手に任意の削除請求を行ないます。
この任意の削除請求の費用については
- 着手金:5万円~10万円程度
- 報酬金:15万円程度
が相場となります。
任意の交渉でまとまらなかったときには、仮処分・裁判を行って削除を求めていきます。
この場合の費用については
- 着手金:20万円程度
- 報酬金:15万円程度
が相場となります。
損害賠償請求
損害賠償請求をする場合には、まず相手の特定が必要なのは差し止めと変わりません。
の後は相手に損害賠償請求を行ないます。任意の請求での損害賠償請求をする場合には、
- 着手金:10万円程度
- 報酬金:回収した額の16%程度
です。
裁判を行う場合には
- 着手金:20万円程度
- 報酬金:回収した額の16%程度
が相場です。
誹謗中傷をされた場合に弁護士に依頼する流れ
誹謗中傷を受けたときに、その解決を弁護士に依頼する場合の流れとしては、
- 法律相談の予約を取る
- 法律相談を行う
- 弁護士に依頼する
という流れで行ないます。
弁護士に依頼する場合でも、まずは見通しなどを確認するために法律相談を行ないます。
法律相談はまず事前に訪問日時を予約する必要があるので、弁護士の事務所に電話するなどしてコンタクトをとり法律相談の予約を取ります。
その上で決めた日時に法律相談を行ない、弁護士に依頼することになります。
依頼の際には契約書を取り交わしますので印鑑を持参するようにしましょう。
また、弁護士によっては本人の身分証明書を必要とする場合もあるので、法律相談時に確認しておくことが望ましいです。
まとめ
このページでは、インターネットやSNSで誹謗中傷を受けたときの対応方法を中心にお伝えしてきました。
スマートフォンの普及に伴ってインターネットやSNSで心無い誹謗中傷を行う人が増えましたが、匿名で行われることもあり本人の特定が難しいです。
なるべく早く弁護士に相談して、削除・損害賠償請求を行ないましょう。