インターネットやSNSなどで自身に関する書き込みを見つけ、削除してほしいと感じたことのある人は多いのではないでしょうか。
このような時は、書き込み削除の仮処分を行うことで、削除してもらえる可能性が高まります。この記事では、仮処分を行う際の概要から具体的な流れ、さらには仮処分を行うメリットについて解説します。いざという時のためにぜひ参考にしてください。
ネット書き込みは拡散される恐れもある
インターネットに対する書き込みは、まとめサイトやTwitter、Instagram、FacebookといったSNSなどによって拡散される恐れがあります。間違った書き込みであっても拡散される可能性はあり、一度拡散されると、情報を削除することが難しくなるでしょう。
自身のイメージを損なう書き込みである場合、仕事や人間関係などに影響する可能性もあります。そのため、ネット書き込みは、できるだけ早い段階で削除してもらうことが重要です。
削除してもらいたいネット書き込みを見つけたら
自身に関する書き込みを発見し、削除してほしいと思った場合、一般的には書き込みが行われているWebサイトやSNSの管理者に対して、削除してもらうように依頼します。
しかし、この削除依頼はあくまでも任意での削除依頼となるため、サイト管理者やSNSアカウント保有者が削除に応じない可能性は十分にありえます。また、Webサイトの管理者や状況によっては、直接削除依頼をすることが適切でないケースもあります。
では、削除依頼に応じてもらえない場合はどのようにすればいいのでしょうか?引き続き解説します。
削除依頼に応じない時はネット書き込み削除の仮処分を行う
Webサイト管理者やSNSアカウント保有者が削除依頼に応じてくれない場合、書き込み削除の仮処分の申し立てを行うことができます。
仮処分とは、正式な裁判を行う前に、裁判で勝訴したときと同じ状態を確保できる手続きのことです。裁判所に対して、書き込み削除の仮処分を申し立て、裁判所から命令が出されるという流れです。
仮処分は「仮」という言葉の通り、あくまでも仮の地位を認めたものです。しかし、多くの場合仮処分によって書き込みを削除してもらえるため、裁判に進むことなく仮処分の申し立てのみで目的を達成できます。詳しくは後述しますが、仮処分を行っても削除してもらえない場合は裁判を行うことになります。
ちなみに、裁判でも書き込みの削除を求めることができますが、裁判を行うと判決が出るまでに時間がかかってしまいます。インターネット上の書き込みは時間が経過するにつれて、どんどん拡散される恐れがあるため、裁判よりも素早い対応ができる仮処分の手続きを行うケースが多くなっています。
ネット書き込み削除の仮処分を認めてもらうためには
書き込み削除の仮処分は、申し立てを行えば必ず削除命令が出されるわけではありません。削除の仮処分を認めてもらうには、条件を満たしておく必要があります。
その条件とは「被保全権利」と「保全の必要性」の2つです。この点に関しては、民事保全法にも定められています。
では、「被保全権利」と「保全の必要性」とはどのようなものなのでしょうか?
まず、被保全権利とは、仮処分の命令を発令することなどによって保全するべき権利のことです。具体的には、名誉毀損やプライバシーの侵害などが挙げられます。
また、著作権法や商標権に基づいた差止請求権なども該当すると考えられます。仮処分を行う理由として特に多いのは名誉毀損に基づいたものであり、インターネット上の書き込みやSNSの投稿なども当てはまります。
一方の保全の必要性とは、権利が侵害された状態を仮処分によって速やかに解消しなければならないのか、というその必要性に関することです。簡単にいうと、インターネット書き込みによって名誉が毀損されている場合、その状態を仮処分によって速やかに解消するべきなのかどうかが検討され、解消するべきとなったときに条件を満たしたことになります。
これから仮処分の申し立てを行おうと思っている人は、上記の2点により仮処分命令が下されない可能性もあるため、注意してください。
ネット書き込みを仮処分命令で削除してもらうまでの具体的な流れ
ここでは、仮処分の申し立てから、仮処分命令が下りネット書き込みが削除されるまでの具体的な流れについて解説します。大まかな流れは以下の通りです。
- 仮処分の申立書を提出する
- 審尋を行う
- 立担保を行う
- 仮処分命令が発令される
- ネット書き込みの削除が執行される
それぞれについて詳しく解説していきます。
仮処分の申立書を提出する
仮処分を行ってもらいたい場合、最初に仮処分の申立書を提出します。Webサイトの運営者やSNSアカウントの所有者を相手方としたうえで、書き込みの削除を求める申し立て書を提出してください。
申立書には、どのような書き込みによってどういった自分の権利が侵害されているのか、削除しないとどういった被害を受ける可能性があるのか説明する必要があります。
例えば、ネット書き込みによって自身の名誉が毀損されており、削除しないと社会的な信用を失ってしまうといったイメージです。こちらはあくまでも簡単な例であるため、実際に申請する場合は、弁護士などに相談するといいでしょう。
申立書を提出する際は、主張内容の疎明ができる証拠を一緒に提出しなければなりません。疎明とは、確かであることが認められることです。通常の裁判の際に求められる証拠よりも確信度は低くても問題ありません。
疎明として利用できるものには、書き込みが投稿された日時や書き込み内容などがわかる資料の印刷や書き込みによって発生した被害がわかる資料などが挙げられます。疎明として使用するために、書き込みが行われているWebサイトのスクリーンショットを行っておくといいでしょう。
審尋を行う
申立書を提出した後は、審尋が行われます。審尋とは、裁判官によって申立人や相手がたの言い分の確認が行われ、それぞれの主張の当否を判断する手続きのことです。
仮処分を申請する場合、申立人と相手方の双方に話を聞く双方審尋で審理が進むため、申立人、相手方ともに裁判所へ出頭しなければならないため注意してください。審尋は、基本的には1回で終わりますが、争う内容が大きい場合は複数回にわたって行われるケースもあります。
立担保を行う
審尋の後は、立担保が行われます。立担保とは、裁判所の決定によって、担保を立てることです。審尋の結果、裁判所が保全の必要性と被保全権利の必要性を両方認めるケースもあります。
このような時に、申立人に対して担保金の供託が命じられます。担保金は仮処分の結果、相手方に何かしらの損害などが発生し、その後通常の裁判が行われ、裁判の結果申立人が賠償責任を負うことになったときに、その責任を担保するために用いられます。
担保金は基本的に、手続きを行うことで還付を受けることができます。これから仮処分を申請する人は、担保金の負担が発生する可能性がある点に注意しなければなりません。
仮処分命令が発令される
立担保が行われた後になってようやく、裁判所からWebサイトの管理者などに対してネット書き込み削除の仮処分命令が発令されます。先ほども説明しているように、一般的には仮処分が下されると、管理者は削除するため、多くの場合は申立人の目的は達成されます。その後の裁判は不要となるため、立担保の還付手続きを行います。
なお、仮処分の申し立てを行ってから、仮処分命令が下されるまで1〜2ヶ月程度はかかります。裁判を行うよりも手続き自体は早く行われるものの、それでも一定期間は必要となるため、できるだけ早い段階で削除の仮処分を申請するべきです。
ネット書き込みの削除が行われない場合は強制執行も視野に入れる
仮処分命令が下されたものの、それでも管理者がネット書き込みを削除しない場合、強制執行の手続きを行うことも可能です。強制執行の申し立てを行うと、書き込みが削除されるまで、相手方は裁判所によって命じられた金額を支払わなければなりません。
なお、強制執行は仮処分とは別の手続きです。そのため、申し立てを行う際は別途対応する必要がある点に注意してください。
ネット書き込み削除の仮処分を検討する際のポイント
ネット書き込みを発見し、削除の仮処分を行うか検討している方は、まず書き込みの内容を証拠として残しておくことが大切です。魚拓やリンクの記録などは、証拠としても活用できるため、残しておきましょう。
また、本当に仮処分の申し立てを行うべきか確認するため、弁護士に相談することも大切です。弁護士は内容を踏まえたうえで、権利侵害が認められるかどうかを判断してくれます。権利侵害の可能性があるのであれば、そのまま仮処分の手続きを依頼してもいいでしょう。
ちなみに、自身でサイト管理者に書き込みの削除を依頼し一度は拒否されていたとしても、弁護士を通じて再び依頼すると削除してもらえるケースもあります。そのため、弁護士に相談する価値は大いにあると言えるでしょう。
ネット書き込み削除の法的手段を選ぶメリット
この記事を読んでいる人の中には、法的手段を選ぶことに抵抗を感じている人もいるでしょう。中には、「法的手段を選ぶならもうこのままでいいかな」と思っている人もいるかもしれません。しかし泣き寝入りすると、その後自身が大きな被害を受ける可能性もあります。
ここでは、法的手段を選ぶメリットについて解説します。申し立てを行うか迷っている方はぜひ参考にしてください。
ネット書き込み削除の確実性が高くなる
任意による削除依頼に対応してくれない人であっても、裁判所から仮処分命令が下されたら、多くの場合は削除を行います。また、SNS等での書き込みを行った人を見つけるために発信者情報開示の仮処分を申し立てることもできます。
この仮処分が下されると、多くのプロバイダは任意開示に対応してくれるでしょう。このように、法的な手続きを取ることによって削除や情報開示に応じてもらえるケースが多くなるため、確実性が高くなります。
弁護士に任せられる
仮処分の申し立てを行う場合、弁護士に依頼することになるため、自身の労力がかかりません。もし自分自身でWebサイトの管理者と交渉して削除依頼をするとなると手間も労力もかかります。
一方で、弁護士を利用すればこういった手続きは全て弁護士が対応してくれ、依頼人は仮処分が確定するのを待つのみです。
発信者情報の開示も可能
先ほども少し触れていますが、WebサイトやSNSなどに書き込みを行ったのが誰なのか知りたい場合、情報開示を求めることもできます。しかし、管理者などに直接情報開示を求めても対応してくれるケースはほとんどありません。
一方で、法的な手続きを取れば、情報開示を受けられる可能性があるほか、そこから損害賠償請求や刑事告訴などを行うことも可能です。
書き込みを削除したとしても、投稿者は特に被害や損害等を受けることはありません。再発防止のためにも、発信者情報を特定したうえで、ペナルティを与えることも検討するべきだと言えます。
ネット書き込み削除の法的手段を利用する際の注意点
法的手段には多くのメリットがありますが、費用が発生する点には注意が必要です。仮処分には先ほども説明した立担保のほか、弁護士に依頼すると弁護士費用も発生します。
また、情報開示を請求したものの、プロバイダにログが保存されていないため法的手続きが無駄足になる可能性もあります。
まとめ
今回は、ネット書き込み削除の仮処分に関して、その概要から具体的な手続きの流れ、さらには法的手段を利用するメリットなどについて解説しました。
WebサイトやSNSなどで自身に関する悪質な書き込みを見つけた場合、拡散される前に速やかに削除の仮処分申し立てを行うべきです。悪質な書き込みを速やかに削除することが重要であることは言うまでもありません。
ぜひ今回の内容を参考に、弁護士法人M&A総合法律事務所に相談してみてください。